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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(オ)191号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人石田伊太郎の上告理由 (イ)について。

所論は、原判決が所論与右エ門の異議につき一応の正当事由が存在したものと推認される旨判示したのに対し、正当事由が存在しなかつたと主張するものであるが、原判決はむしろ借地権が法定更新したことを前提として調停・和解の効力を論じているのであるから、正当事由に関する右判示はあらずもがなの部分に過ぎず、原判決に所論の違法を生ぜしめない。

同 (ロ)、(ハ)について。

所論は、原判決が本件にいわゆる第一次調停の対象が更新せられた法定借地権の存否であつたと推認している点を攻撃するが、原判決挙示の証拠およびその認定にかかる間接事実なかんずく借地法による期限満了を前提として地主与右エ門から満了の前年である昭和一九年九月一四日に更新拒絶の通知がなされていたこと等を総合すれば、原判決の右推認はこれを首肯することができ、所論はひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨選択を非難することに帰するから、採用できない。

同 (ニ)について。

所論は、原審がいわゆる第一次調停の効力を判断するに先立ち、異議に正当事由があるか否かを解決すべきであつたとし、また上告理由(イ)で引用した判示部分と所論判示部分との間に理由齟齬の違法があると主張する。しかし、調停・和解に際して、理論上先行すべき判断を留保したまま、本来その判断に依存して存否の決せられる権利について合意の成立することは少なくなく、むしろそのような場合を予想してこそ民法六九六条の規定があるのである。また所論判示部分は、正当事由の存否が第一次調停の効力に影響のないことを言うに止まり、その不存在を言うものではないから、上告理由(イ)引用の部分との間に理由の齟齬はない。所論は採用できない。

同 (ホ)について。

所論は上告人において法定更新の適用を知らなかつた点第一次調停には要素の錯誤があり、この主張が原審に誤解せられたというのであるが、右調停において民法上の和解の対象となつたのは借地権の存否自体だつたのであるから、この和解において判示期限後における借地権の消滅が合意せられた以上、後に法定更新の点が判明したとしても、民法六九六条により、和解の効力を争うことは許されないと解すべきであり、所論は採用に値しない。

同 (ヘ)について。

原判決が、判示のように上告人において賃借権を放棄した事実並びに本件二次にわたる調停・和解成立の経緯を認定した上で、本件第二次和解において本件賃借土地の明渡期限を昭和二七年九月末日まで延期する旨を定めたのは一時使用を目的とする賃借権を定めたものに過ぎないと判示したのは正当であつて、所論は、ひつきよう、原判決認定の事実を争い、あるいは原判決の認定しない事実に立脚して原判決の違法を主張するものであつて、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助)

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